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高みを目指して悪戦苦闘。創業メンバーが繋いだバトン──創業5期目

「あらゆる関係性をフェアにする」をミッションに掲げるPR Table社。2019年はサービスサイトのリニューアル、PR3.0の続編開催など、活動をさらに洗練。しかし、代表取締役の大堀航/大堀海兄弟、最初期メンバーで取締役の菅原弘暁には、さらなる苦難の日々が待ち受けていました。

第5期は「地味」だった。けれど、欠かせない時間だった

▲第4期がはじまって早々に行われた、初めての全社合宿。夜はだらしなく酒を飲んだ

第4期を振り返り、「仕込みに4年掛かった」と口を揃えた経営陣の3人。キャッシュアウトや人材の危機も経験しながら、「PR」という世界へ着実に新風を吹かせてきました。

第5期の早々には、サービスのシンボルロゴを開発。“WORK IS LOVE”の文字とともに、新たな時代を予感させる船出でした。ところが、改めて今期を振り返ると、菅原は「第5期を僕なりに一言で表すと『時間稼ぎ』でした」と言います。それを大堀航は「加圧トレーニング」と、大堀海も「基盤づくり」と表現しました。つまり、仕込みが花開く一年という期待感よりも、さらなる地固めに奔走した日々だったのです。

海 「スタートアップ的な伸び方を目指し、より大きな事業になるために必要でした。他の企業であれば、急成長の仕込みを終えてからブランディングや会社としての魅せ方を考えるのでしょうが、図らずとも僕らはその順序が逆になってしまって」

経営陣の3人は、第4期で「成すべき事業の検証」に一旦の区切りを見たと考えていました。ところが、2019年に起きる数々の問題、そして自分たちが立ち向かう課題を前に、この「事業の検証」が十分でないことに思い当たったのです。

菅原 「これまでの紆余曲折と経験値もあったため、大きく組織が崩れたり、既存事業が倒れたりはしていません。数字は伸びたし、中核となる人材も育ち、開発体制の整備も進んだ。仁科奏という執行役員も迎えられた。第5期はこれまでの"波乱万丈"に比べたら、正直、地味かもしれません。でも、中身では大事な一年でした」

第4期でメインテーマに据えられた、大規模なPRカンファレンスの開催。初回となった去年は菅原を筆頭に全力を尽くして臨みましたが、今期は400名規模のカンファレンスを二度も実施。現場で動くメンバーたちの成長と、ナレッジの標準化が功を奏した結果でした。

概要だけ見れば、堅調な一年だったといえるはずですが、経営陣の顔からは明瞭な明るさだけでない、“含み”を感じさせます。「通信簿でいうと、まあまあ。100点満点じゃないけれど……」「アウトプットとしては今までで一番いいのだけれど……」と、言葉尻に苦味が走る。その裏側には、会社の根幹を揺るがしかねなかった「戸惑い」が潜んでいました。

甘かった事業戦略。「スピードと徹底」による軍隊式マネジメントが始まる

▲大きな予算をかけて出展したHR EXPOの撤収作業。当時から「総力戦」という言葉がよく使われていた

まずは「対外的なイメージ」への戸惑いです。全員で成し遂げた大規模カンファレンスには「痛し痒し」の面があったのです。

航 「会社(PR Table)の知名度が上がり、採用はもちろん、同名のサービスなのでリード獲得にもつながって事業も伸びました。ただ、サービスそのものよりもカンファレンスのほうが有名になってしまったんですね。結果として、プロダクトを提供している会社である認知は、まだまだ足りません。カンファレンスの成功で大きな期待を背負ったものの、実業で応えられるだけの実力には至れていなかったということだと思います」

自分たちは、あくまでプロダクトを作り出し、提供する会社である。その根本を再度確認し、2019年は新規事業をはじめとする「創出」に主眼を置きはじめます。しかし、既存事業の管掌を一任された海は、自分たちの在るべき姿とのギャップに頭を抱えていました。

海 「自分たちのコアコンピタンスは、自分たちが最もわかっているはずなんですけれど、やっぱり周囲に振り回されるんです。特に顧客の存在を外しては考えにくいですから。サービス対象を従業員にするか、採用候補者にするか……と考えても、目先の売上をいかに作るか、営業担当の成果が出せなければチームとしてのモチベーションが下がってしまいかねない。そんなことを考え始めると、どうしても打ち手が中途半端なものになってしまったんです」

戦略の方針が決まらない以上は、組織マネジメントもうまくいきません。そこで、菅原が言う「時間稼ぎ」の言葉の意味がくっきりとしました。まずは「戦略をシャープにする時間を稼ぐため、スピードと徹底性で実行部隊を強くする」という意思のもと、下期から海が担っていた事業責任者の役割を菅原へと移し、粛々と目先の数字を改善していきます。

それはある種の「軍隊式マネジメントだった」と菅原。ところが、この方針がPR Tableにとって新たな展開をもたらします。かつて苦心した採用が実を結びはじめ、創業者を超えるパフォーマンスを発揮する人材が複数名あらわれてきたのです。経営陣は彼らを"隊長"と呼ぶようになりました。

菅原 「各チームにおける“隊長”が生まれていったことで、これまで海が担っていた責務を彼らに移譲できるようになったんです。『勇気を持って渡してしまおうよ』と言えました。一方で、“隊長”を輩出するために、かなり強めの口調でコミュニケーションをしてきたので、メンバーには相当負担をかけてしまったのも事実です。第6期は、これによる負債を解消しなければと考えています。少なくとも1年後には、同じスタイルでは組織が壊れるのが見えていましたから」

その来たるべき1年後を見据え、PR Tableは新たな執行役員を迎え入れることに成功します。NTTドコモ、セールスフォース、プレイドといった企業での活躍を経た、仁科奏が2020年1月にジョインしたのです。第6期における組織の在り方は、必ずや変化していくことでしょう。

経営人材の採用を経て見出した、事業戦略を打ち出すためのコンセプト

▲採用選考と称して行われた合宿。当時候補者だった仁科(2020年1月入社)がなぜかファシリテーター兼書記を任されていた

しかし、肝心の戦略方針は、なかなか定まりませんでした。

海 「株主や外部コンサルの方とミーティングをするなかで、『価値の打ち出し方』をもう一回研ぎすまし提供価値と市場の求めを明確に定義すべき、と言われることもありました。そのやり取りで一つずつ棚卸しができていき、戦略としてのコンセプトの粒度が上がっていきました。これは第5期の最大の収穫だったと思います。たとえば、マーケティングのファネルの数字が振るわないのも、小手先の理由だけでなく、根本にあるコンセプトがうまく定まっていないからだ、というのが見えてきたわけです」

「何のためにその事業をするのか」が明確でない限りは、打ち手も近視眼的であったり、即効性のある施策に頼ったりと、上澄みの議論になってしまいがちになる。「もっと早くこの大切さに気付けていたら」と大堀海は後悔の色もにじませます。

海 「第6期以降は、何のためにこのプロダクトが存在しているのかを、本当に僕らが言い続けなくてはとも考えています。それこそ組織の崩壊や離職につながってしまうかもしれないから。コンセプトを決めきることに立ち向かえなかったのは……自信の無さ、だったのかな。いや、それよりも『立ち向かえているつもりでいた』っていう感じですね」

このコンセプト固めにつながったのが2019年7月に実施した合宿。菅原がシリコンバレー視察で持ち帰った「合宿の効用」を活かし、「戦略とコンセプトを決める」ことを目標に実施したのです。後にジョインすることになる仁科にも採用選考と称して参加を依頼し、自分たちを知ってもらうための機会も兼ねました。

菅原 「経営人材の採用と、戦略の解像度を高める営みは、ほぼ同義なんだなと学びました」

そして、ついに見えた"本当の提供価値"は「タレントブランディング」でした。情報発信プラットフォームの「PR Table」は、企業内の社員(タレント)のコンテンツを通じて組織の活性化を実現するためのプラットフォームであるーー「組織活性の新しい手法」として提案できるようになりました。

今後、労働市場の趨勢を見ても、企業が成長し続けていくには「選ばれ続ける」という観点が不可欠。PR Tableは「PR」という全領域を志向しながら、事業として改めて「エンプロイーリレーションズ」を深掘りすることにしたのです。

海 「これまでの手法の多くが、企業目線すぎるとも感じています。会社とタレントというフェアな関係性を明らかにして、選ばれ続ける、意志をもって仕事をし続けるという関係構築につなげていけるという仮説を持っています。僕らのプロダクトを通じて、顧客がもつ組織の活力が、社内外へ波及していくような“タレントブランディングモデル”を提供したい」

必死の思いで繋いだバトンは、「優秀な人材」へと手渡された

▲11月に行われたブランドムービー撮影の休憩時間。撮影は創業者3名の地元で行われた

大規模カンファレンスによって対外的にイメージされやすくなった「コンサル業」の側面を、今後は提供するプロダクトによって覆していく。言わば「セルフ・リブランディング」とも取れる一つの難題に挑みながら、PR Tableは新たに見つけ出した目的地に向かって帆を広げて進んでいきます。

航 「PR Tableは、パブリックリレーションズという思想を持ったテック企業であることを、証明していきたいです。でも、言っていることと、やれていることの乖離はまだまだ大きい。だからこそ、仁科のような人材に加わってもらい、もっと成長角度を上げて、言っていることの大きさに、どんどんと追いつけるようにならないと」

第4期までの歩みと比べれば、大きな事件や危機もなかったように見える第5期。しかし、その内実には「第5期があったから今がある」と思えるような、将来の起点になる仕込みが行われていました。

そして、誰もが予想し得なかった、世界的な未曾有の緊急事態。各社が大きな方針転換に迫られるなか、PR Tableは粛々とさらなる資金調達と、基幹事業である「PR Table(のちのtalentbook)」のリニューアルを進めることになります。

高みを目指すためなら、過去の成功体験を自己否定して、新たな事業戦略への解像度を高めよう。どんなに不格好でもステークホルダーから信頼される実績を残そう。どんな苦境にも耐えられる強い組織を作ろうーー。

このようして創業メンバーが第6期に繋いだバトンは、「自分たちより優秀な人材」へと手渡されました。